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不安障害

はじめに

病的な不安や恐怖感が起こることが主な症状の病気を『不安障害』と言います。『不安障害』の中には、『パニック障害』、『社交不安障害』、『全般不安障害』、『限曲性恐怖症』があります。それぞれの特徴を説明し、治療法、当院での治療の特徴を説明します。

パニック障害

突然激しい動悸、息苦しさ、めまい、吐き気、震えなどが一気に起こり「死ぬのではないか」と思うような激しい不安と恐怖が起こります。時間は数分〜数十分と短いです。乗り物、人混み、お店、一人でいる時など場所や状況は様々です。一度そのような発作があった後、「また発作が起こったら怖い・・」と不安を感じるようになります(予期不安)。そして、発作が起こった場所や、人の多い場所、一人で外出したり乗り物に乗ることを避けるようになります(恐怖症性回避)。そのため、通勤や通学ができなくなり、家で引きこもるなど日常生活に支障が出ることもあります。また生活に支障が出ることで気分が深く落ち込むこともあります。内科や呼吸器、循環器を受診する人も多くいますが、身体疾患によるものではないので、体の検査をしても原因が見つかりません。
 病気の原因は遺伝的な部分(両親にパニック障害がある人の発症率は普通の4−7倍)、脳の機能トラブル(快不快や恐怖と不安に関係する扁桃体がパニック発作のときに血流が過剰に増加)、ストレスなどが加わって起こるとされています。女性に多く(男性の2.5倍)、発症年齢は18−59歳です。


【詳しくは】

社交不安障害

人前で何かしなくてはならない時(大勢の人前で話す、会話、公共の場での飲食など)に極度に緊張し、強い不安を抱きます。「自分の行動が間違っていて、誰かに馬鹿にされるのではないか」「失敗して恥ずかしい思いをするのではないか」などと感じます。人によっては字を書く時に「人より字が下手だと軽蔑されるのでは」と考え手が震えてしまう人もいます(書痙)。自分でできるだけその状況を避けるようと工夫します。しかし、避けられない時には強く不安を感じます。自分が不安になりすぎていることはわかっていても、「気の持ちようなので直そうと」思ってもどうにもなりません。顔が赤くなったり、ドキドキしたり、汗をかいたり、吐き気やめまいが出ることもあります。この症状は、以前は日本人独特のものだと考えられていましたが、現在ではアメリカなど外国でも同じ症状の人がいることがわかっています。
 病気の原因ははっきりしていませんが、抗うつ薬などを服用しながら、段階的にできることを増やしていくような治療をすることで、症状が軽減することがわかっています。男性の方がやや多く、発症年齢は10代半ばから20代前半です。

 

全般不安障害

私たちは日常生活の中でいろいろな心配事を感じます。しかし、どれだけ心配でも気にしない時間があったり、心配事が解決すればそのことを忘れてしまったりすることもあります。しかし、この病気になるとどのような状況においても、特に大きな理由や根拠もなく常になにかについて心配し、漠然とした不安感に苦しめられます。先にお伝えした『パニック障害』のような強い発作は起こりません。しかしずっと不安で、日常生活に手がつかなくなります。自分が心配しても仕方ないとわかっていても考えを止めることができません。心配しすぎて体が常に緊張状態にあるため、イライラや集中力の低下、汗、胸のドキドキ、めまい、眠れないなど体の症状が起こリます。
 病気の原因は脳の神経伝達物質であるセロトニンが足りないために起こるのではと考えられており、環境や性格も影響しているとされています。この病気だけを発症することは珍しく、他の『不安障害』やうつ病などと一緒に起こることが多いです。ご自身では病気であるという自覚が少なく、精神科を受診することが少ないです。不安感を紛らわすためにアルコールや薬物などを過剰に使う人もいます。女性は男性の約2倍の発症率です。発症年齢は30歳ごろが多いですが、幅広い年齢で見られます。

限曲性恐怖症

 動物や虫、狭いところや高いところ、血や注射、嵐や雷、地震など自然現象に対して普通の人が感じる以上に恐怖感を感じます。普通の人が感じる以上の恐怖感というのは、気分が悪くなる、めまい、吐き気などで気絶する人もいます。子どもの頃に対象物に感じた恐怖感や、実際に体験した恐怖がきっかけになることが多いです。患者さんの多くは恐怖となる対象を避けて生活していれば問題にならないことが多く、受診に繋がっていない人も多くいます。女性に多く、子どもにもよく見られます。

治療法

現在、不安障害には薬物治療と不安について学び、自分の視点や行動を先生と話していく中で変える治療を合わせて行うと、効果的であることが研究でわかっています。
 薬物治療では、SSRIという抗うつ薬が使われることが多くなっています。SSRIは脳の神経伝達物質であるセロトニンを増やします。セロトニンが増えることで、強い不安が軽くなります。SSRIは、二週間から一ヶ月飲み続けることによってじっくり、効果が出てくるタイプのお薬です。また、止めるときは、必ず少しずつ減らしていかなければ体がしんどくなることがあります。SSRIが効いてくるのを待つ間に、即効性のある抗不安薬を注意しながら使うことがあります。抗不安薬は、耐性(飲み続けていくうちに効果が弱くなる)や依存性(効果がきれると余計不安になる)の副作用があります。お薬をはじめる時も、減らす時も、止めるときも、ご自身の考えを先生に伝え、よく相談して使うことがとても大切です。
 不安についての知識を得て、先生と話をしながら、ご自身の考え方のくせやそのように考える理由を見直したり、もっと良い対応方がないか、考えていくことも大切です。『暴露療法』(不安を感じる状況にわざと身を置いて、不安を克服していく)『系統的脱感作法』(不安レベルの低いものから徐々に挑戦して慣らしていく)などを使用することもあります。
 治療によって、症状が起きないから行動ができる、行動できるから自信がつき、さらに症状は起きにくくなると言う良い循環を作っていきます。長期にわたってじっくりご自身の状況を観察していくことが大切です。

 

当院の治療コンセプト

  不安が生じるのは生き物にとって非常に大切なことです。不安は危険を避けるための大切な感情だからです。ただ、不安が強すぎたり、多すぎると生きにくさが生まれることも事実です。

不安が生じやすい状態のひとつに、その人自身の体調が悪いときがあげられます。当院では体にも注目し、体の弱っている部分にもアプローチしていきます。例えば、不安になることで、胃が痛くなる、下痢になる、便秘になる、不眠になる、頭痛が起きる、体が硬くなる、姿勢が悪くなるといったことが起きることがあります。結果、体の疲労感が増し、不安がより生じやすくなる悪循環に入ります。漢方薬で、体そのものにアプローチしたり、運動療法やつぼ(経穴)などで体の緊張をとってリラックスしていただくことが、一般的な療養に加えると効果的なことがあります。

不安が起きやすい人は、考えこむことが多いです。考えないようにできれば、不安は少なくなります。しかし、おひとりでなかなかそのようにできる人は少ないです。治療の中で話しあいながら、その人にとって、好きなこと(趣味など)を積極的にしていただくようお勧めすることも行なっていきます。

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