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新型コロナウイルスがある社会と漢方

新型コロナウイルスがある社会でしんどくなるのはどうして?


 現在、世界は新型コロナウイルス の脅威にさらされています。

私たちは普段よりも発熱など体の症状に対して、敏感になっています。また、はっきりと明確になっていないことがいまだに多く、先々の不安を感じやすい状況にいます。新しい生活様式の名のもとに、仕事や対人場面で感染を避けるために距離を置くことが普通になっています。居酒屋で、皆で楽しく飲み食いしたり、コンサートやライブを堪能することも、できない世の中になりました。繰り返される緊急事態宣言により、こころはピリピリ緊張しやすくなっています。マスクをつけることが当たり前であるため、表情の読み取りにくさがあります。孤独感や閉塞感は、個人だけでなく社会全体に大きな影響を及ぼしています。


変化の激しい社会で適応できないとどうなるの?


 変化はストレスになるので、変化が激しい生活の中で、ある程度気持ちがしんどくなることは人間として普通のことです。

 ストレスは、からだに、不眠、過眠、頭痛、息苦しさ、食欲不振、胃痛、下痢、腹痛などとして現れることがあります。また、こころに抑うつ、無気力、仕事や学校に行きたくない、集中できない、イライラするなど情緒不安定として現れることがあります。一時的なもので、回復していくこともありますが、放っておくことで『病気』に移行していく場合もあります。

 『病気』になる前に、東洋医学的なアプローチで心身を整えておくことが、有効な場合があります。症状と体質に応じた処方例を下記に示します。(のちにもう少しくわしくご説明します)。

不眠:酸棗仁湯、黄連解毒湯、抑肝散など

頭痛:釣藤散、五苓散など

息苦しい:半夏厚朴湯など

食欲不振、胃痛:四逆散、六君子湯など

下痢:小建中湯、大建中湯など

抑うつ:柴胡桂枝乾姜湯、香蘇散、補中益気湯など

イライラする:抑肝散、抑肝散加陳皮半夏など

 また、感染予防に注意をしすぎて手を洗うのがやめられなくなったり、外に出られなくなる、世間でちゃんと予防をしていない人に対して異常に腹が立つ、不安が常にあって新型コロナウイルスに感染したのではと感じる、夜眠れない、などの症状が著しい方もおられます。西洋医学、東洋医学両面からのアプローチが必要 になってくる場合もあります。

 ストレスがかかった際には、一般的にはまず原因となるストレス因子から距離を取ることが大切だとされています。新型コロナウイルスのニュースや新聞、S N Sの情報をみすぎることは精神的な害になることが明らかになっています。情報を見過ぎないことはストレスの軽減には有益であるとW H Oも勧告を行なっています。(詳細は下記追記) 

 しかし現在、我々は新型コロナウイルスの影響から完全に距離を取ることができません。そのため、ある程度このストレスに付き合いながら、今を生き延びていく必要があります。


漢方薬は今の時代にぴったり?


 漢方をはじめとした東洋医学は、様々な病気、検査、診断、治療がはっきりしていない時代からはじまっています。新型コロナウイルスのはっきりしなさに苦しんでいる現在は、ある意味ではその時代に似ているといえるでしょう。漢方薬は、古代から現在に至るまで、その人の体質やバランスを整える試みを続けています。漢方や東洋医学的な考え方を使い、心身のバランスをとっていくことが、私たちの助けになることがあるかもしれません。


新型コロナウイルスに対抗するための体づくり


 新型コロナウイルスの感染そのものは、体にほとんど反応をだしません。私たち自身の体の免疫が、新型コロナウイルスの侵入(肺にまで到達することがあります)をはばみ、体の外へ追い出そうとします。体は、発熱、咳、嘔吐、下痢、頭痛、筋肉痛など様々な症状を起こしてコロナウイルスと戦います。これを『免疫反応』と言います。『免疫反応』が弱すぎると、ウイルスから体を守ることができません。しかし、『免疫反応』が強すぎると、自分自身を攻撃してしまい、体は衰弱し、最悪死に至ります。新型コロナウイルスと戦うために、安定した免疫反応が起こるようバランスの良い体に整えておくことが大切です。

(参考:漫画働く細胞「新型コロナウイルス(2022年3月まで無料公開) 」https://www.youtube.com/watch?v=0WZJ32NqWUA


安定した免疫反応が起こせる体に整える6つのポイント


 適度な運動・十分な睡眠・体温を上げる・食事・腸内環境・リラックスが大切です。

1. 適度な運動

 ステイホームで運動不足が目立っている人が多いかもしれません。意識して自宅でできる筋肉トレーニングやヨーガなど、動画を見ながらやってみましょう。人の少ない所で、散歩やジョギングをするなど運動をしてみるのも良いでしょう。

2. 十分な睡眠

 脳は覚醒から眠りに入る時に、一番エネルギーを使うとされています。私たちはエネルギー不足があると、眠りにうまく切り替えることができません。西洋医学同様、漢方にも睡眠のサポートをするお薬が、たくさんあります。疲れているのに眠れない人には、酸棗仁湯がおすすめです。また、考えすぎてカッカとするため、興奮して眠れない人には、黄連解毒湯がよく効きます。イライラして眠れない人には、抑肝散を服用してもらいます。

3. 体温を上げる

 体温をうまく上げることができれば、ウイルスは死滅します(39度で秒単位、38度で分単位)。平時の体では、36-7度程度が体の酵素も働きやすく、免疫も安定します。低体温は体の代謝そのものが落ち、免疫が不安定になります。漢方は体質を改善し、体温を上げるお手伝いができます。例えば筋肉も少なく、体力のない冷え症の女性には、当帰芍薬散、元々体力があり、疲れ切って冷え切っている、下半身のむくみがあるような中高年の方には、真武湯、気力がなく冷えが強い方、特に高齢者の方などには、人参養栄湯などをお勧めしています。

4. 食事

 季節の旬のものを取り入れたバランスのよい食事が大切です。特に腸内細菌に強く働きかける発酵食品は、免疫力を上げます。日本には味噌汁、納豆、漬け物など取り入れやすい発酵食品が多くあります。意識して取り入れてみましょう。

5. 腸内環境

 腸内のバランスが体の免疫に大きく関わっていることが、一般的になりつつあります。便秘や下痢など著しい腸内環境の悪化は、免疫力を不安定にさせます。漢方で整えていきましょう。体が弱く食べすぎると下痢や便秘などを繰り返す人は、小建中湯が役立ちます。お腹が冷えて下痢になる人は、大建中湯がお勧めです。慢性的な便秘で比較的体力のある方は、麻子仁丸、便秘薬でお腹がいたくなる人は、潤腸湯がいいでしょう。

6. リラックス

 現在のような緊張が続いている状態は、心や体を弱らせます。体と心の緊張をほぐすことを意識しておきましょう。呼吸法も大切です。

(参考:国立精神神経センターhttps://www.ncnp.go.jp/nimh/behavior/anxiety/breathing.html) 好きな事をしたり、笑ったり、安心できる人に話を聞いてもらうだけでも、十分免疫力はあがります。このような時期だからこそ新しい習慣や趣味を見つけていくことも、良いかもしれません。


新型コロナウイルス と抑うつ?情緒不安定?:漢方にできること


 現在のような状態では一時的に気分が落ち込む、集中できない、イライラする、不安が強い、情緒不安定になるなど気持ちに変化が起こることはある程度普通のことです。しかし、気持ちの変化による苦痛が大きい場合は、うつ病や不安障害などの精神科的な加療が必要な場合もあります。本格的な治療までは必要なくとも、苦痛を取るために漢方によるアプローチが有効な場合があります。その際にはその人の体質や、気分の落ち込み、不安感、イライラなどの度合いをお伺いし、お薬を調合していきます。


 「なんとなくしんどいけれど、強く気分が落ち込むところまではいっていない」ような人もいます。その場合は、体を温める、滞った気分をスッと流す作用がある香蘇散を使うことがあります。また、仕事では明るく振る舞うけれど、気疲れをして家では何もできないような感じの方もいます。そのような方には、体を温めて、気分もスッキリさせ、潤いも出し、足が冷えて頭がカッカする熱を、少し冷やすような作用がある、柴胡桂枝乾姜湯をお勧めしています。  ストレスが体に出るタイプの人にも、漢方は有効です。例えば、頭痛がある人には、釣藤散をお勧めしています。このお薬は頭に熱が行きすぎる部分を冷やす力があります。頭痛の方はロキソニンなどのN S A I D S(非ステロイド性抗炎症薬)を使っている人が多く、胃腸が悪くなっていることが多いです。そこで、このお薬を使うことで胃腸も整えます。明らかなストレス要因で胃腸症状が出る方もいます(例:リモートで上司から叱られることが増える)。その場合は、気分を鎮めたり、痛みを減らすことができ、胃腸や肝臓に優しく緊張をほぐす四逆散が有効です。


令和3年6月 かしの木こころのクリニック 

精神科 心療内科 漢方 

医院長 三井 浩



追記


新型コロナウイルスの広がりに対するストレスへの対応 WHO

https://mca.essensys.ro/images/default-source/health-topics/coronavirus/risk-communications/general-public/stress/stress.jpg?sfvrsn=b8974505_14を意訳:高槻赤十字病院 臨床心理士岡村宏美)

◎今のような大変な状況で、かなしくなったり、ストレスを感じたり、混乱したり、こわくなったり、腹が立ったりするのは人間として「ふつう」のことです。あなたが信頼している人に自分の気持ちを話すことは、あなたの気持ちの助けになる可能性があります。友達や家族に話してみましょう。


◎もし家の中にいないといけない場合は、健康的な生活(食べること、寝ること、運動、家族とすごすこと、友達や一緒に住んでいない他の家族と電話やメールでつながりをもつこと)が続けられるように工夫しましょう。


◎「事実はなにか」をきちんと把握するようにしましょう。そうすることで、自分の置かれている危険性を正しく理解し、合理的な予防をすることができます。あなたが信用できる情報(WHOや保健所)を元に把握することをおすすめします。

◎ただ動揺ばかり感じるような報道を繰り返して見聞きする必要はありません。報道を確認するのは、一日のうちで決めた少しの時間にしましょう。心配や気持ちがざわざわすることを減らすことができます。

◎あなたの気持ちをなんとか落ち着かすために、タバコやお酒や違法薬物をつかうのはやめましょう。

◎もし気持ちがクタクタになったら、医療従事者や心理の専門家に相談しましょう。


◎今までに大変だったときに、あなたがどのようにしてうまくその大変さを乗り切ったのか、思い出してみましょう。大変さを乗り切った体験はあなたが今大変な状況を乗り切るのに役立つ可能性があります。


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